帝国ホテル元総料理長・村上信夫さんは、料理長を26年間務めました。
18歳で帝国ホテルへ入社し、洗い場に配属されました。
「三年間は鍋を磨くだけ」と宣言され、ほとんどの同僚が辞めていくなか、
村上さんは、「世界一の鍋磨きになろう」と決意し、
毎日休憩時間を使い徹底的に磨き上げます。
当時使っていた鍋は銅製で、磨けば磨くほどピカピカになり、
鏡のように顔が映るようになりました。
先輩たちは、立場を脅かす後輩に、
料理の味付けや隠し味さえも教えなかったそうです。
また、味付けを盗まれないように鍋に洗剤を入れて戻す人がほとんどで、
味を盗むこともできませんでした。
三ヵ月ほど経ち、「今日の鍋磨きは誰だ」と聞かれるようになったそうです。
そして、村上さんのときだけ、鍋に洗剤が入らずに戻ってくるようになり、
それを指でなめて味付けを勉強することができました。
それからしばらくして調理場から声がかかり、調理人としての人生が始まっていきました。
すべて、答えがここにあります。
「自分が何をやりたいか」ということを振り回すのではなく、
自分がやる羽目になり与えられたことを、
ただひたすら淡々とやり続けていくということです。
それを見ている人が、応援してくれるようになっていきます。
そして、その人がやっていることを見下している何者かがいるようなのです。
その存在は、神や宇宙と呼んでもいいかもしれません。
上からジーッと見守っていて、不平不満、愚痴などを言っている人には、味方をしないように思えます。
小林正観さんの『日々の暮らしを楽にする』(Gakken)より
仕事に限らず、目の前のことに対して、
一所懸命に取り組むことができる人は、
周囲の人をエンロール、味方にしてしまうのでしょう。