「花笑(はなえ)み」ということばが好きである。
このことばを聞くだけでも頬に微笑がのぼってくる気がする。
「花笑み」とは、もともと、つぼんでいた花がパアッとひらく様子を言うことば。
古典教室の堀川さんから、大変おもしろいことばを聞いた。
「公園の散歩などで行き会う人たちは二種類に分かれるんですよ。
花結(はなむす)びの人とカタ結びの人に」
"花結び"の人は、会えばにっこりきれいな微笑がこぼれる。
花結びした紐(ひも)の片方をひっぱるとするりとほどけるように、表情がほどけてやらわらかい笑顔になる。
花笑み。
それである。
"カタ結び"の人は、その反対。
しっかりとカタ結びにした表情は、人と出会っても固く口を結んだまま、にこりともしない。
この花結び、カタ結びは、ただ表情だけではなく、会話にもつながる。
三十年ほど前、イギリス、ヨークシャーの嵐が丘に取材に行ったとき、谷川の傍の狭い道で、土地の人に出会ったことがある。
昨日まではどんより曇っていたのに、その日は朝から晴れわたって、せせらぎもきらめいていた。
向こうから来た人はすれちがいざま、花笑みを見せて、こう言った。
「やあ、あなたがたがいいお天気を連れてきてくれましたね!」
花結びの人の、ほんとうにおしゃれなあいさつをいまも思い出す。
エッセイスト、清川妙氏の『ほほ笑みのある暮らし』(中経の文庫)より抜粋
「花笑み」という言葉、筆者の言う通り素敵な響き、イメージが湧きます。
「花笑み」の人でありたい。