大勢で集まって、テーブルを囲んで仲良く談笑しながら食事する。
これは人類だけの特権である。
99パーセントの動物は「共食(きょうしょく)」をしないそうだ。
チンバンジーがいくらか共食することがある程度。
あとは、サルでもエサを持ったらサッと仲間から離れて、ひとりで食べる。
のんびりしていて、他のサルに取られてしまってはたいへんだ。
これは自己防衛本能の表れである。
人間の場合、人といっしょに食事をしなくなったら要注意。
心の病の始まりのサインだ。
家族の食事が終わってから自分の部屋から出てきて、ひとりでゴソゴソと冷蔵庫を探っている。
こうして「孤立」を続けていると、だんだんと他人がコワクなってくるものだ。
そのうちに、どこへも出かけられず、ひとりで閉じこもってしまう。
私の病院にも食堂があるが、重症の患者さんは食堂にも出られない。
部屋でひとりで食事をする。
少しよくなれば食堂に行くが、食堂でも隣の人にわきめもふらず、ひとりで黙々と食べている。
もう少しよくなると、隣に座った人としゃべれるようになる。
もっとよくなれば、談笑できる。
仲間といっしょに食卓を囲んで談笑する。
普通の人から見れば何でもないことだろう。
それがこんな重要な意味を持っているのだ。
食べているときは、リラックスした状態だ。
楽しい会話ができて、「いっしょに食事をしたい」と思う人は、感じのいい人といえる。
反対に、「あの人といっしょでは、せっかくのおいしい食事もまずくなる」と敬遠したくなる人もいる。
食べているときにも、人の悪口、批判を絶やさない人。
やれ、この餃子はまずいだの、どこそこの店のほうがずっとおいしいだのと、うるさい評価をする人。
医学博士、斎藤茂太氏の『なぜか「感じのいい人」ちょっとしたルール』(知的生き方文庫)より抜粋