鳥取県に「野の花診療所」というホスピスケアの診療所があります。
この診療所の所長で、エッセイストでもある医師、徳永進さんがまだ勤務医の頃、不治の病にかかっている1人の患者さんにこんな質問をしたそうです。
「死ぬ前に何かしたい事はありますか?」
すると、聞かれた女性は、こう答えたというのです。
「道を歩いてみたい」
その患者さんはこう続けます。
「右に曲がると、スーパーがある。
いつもの買い物をして主人の酒のつまみを作る。
死ぬ前に、そんな、スーパーへ続くありふれた道をもう一度歩いてみたい」
何ということ事もない、何気ない日常が、命を支えている。
徳永さんは、患者の言葉で、その事に気が付いたと語っています。
目の見えないカップルは、いつもお互いの顔を触り合うそうです。
2人の夢は
「一秒でもいいから相手の顔を見る事」。
すっと耳が聞こえなかった29歳の女性が、人工内耳を付けて、生まれてはじめて人の声を聴く瞬間の映像を観た事があります。
医者が語りかける声を聴いた女性はボロボロと感激の涙を流し、号泣し続けていました。
ありふれた道を、普通に歩ける事。
恋人の顔を普通に見られる事。
好きな歌手の歌声を普通に聴ける事。
友達と笑いながら普通におしゃべりできる事。
普通。普通。普通。
それらのすべてが、実は奇跡なのですね。
時々、それを思い出すだけで、世界を見る目は必ず変わります。
西沢泰生氏の『大切なことに気づかせてくれる33の物語と90の名言』(かんき出版)より抜粋
普通が普通になってしまう。
普通は普通ではないことを時折、思い起こしたいですね。
「実は奇跡」なのだから