立川談志師匠の著書『談志百選』(講談社)では、わざわざ「舞の海」の回を設けてくださり、「相撲の醍醐味は『"小よく大を制する"ところにある』というなら、この言葉に舞の海ほどふさわしい関取はいまい」と紹介してくれています。
小兵(こひょう)の私が土俵の中を所狭しと動きまわり、自分よりも大きな力士たちを錯乱させて勝ちにいく様が、師匠のツボにはまったのかなと思います。
私の現役当時から、稽古で引き締めながら体を大きくするのではなく、ただ食べて太っていく「力士の大型化」が始まっており、師匠も美しい力士像の崩壊を懸念されていたようです。
幕内から十両に陥落し、故障にも泣かされ、「もう駄目かな」と弱気になっていたころ、こんな叱咤激励の言葉をいただいたことを覚えています。
「精神と肉体を分けて考えろよ。精神は肉体に話しかけるんだ。
『いいか、お前。つらいだろうけど、もう少し頑張れ。あとで楽をさせてやる からな』って」
引退まで真剣に稽古に打ち込み、一番ずつ懸命に勝負すれば、肉体が悲鳴を上げても、今度は精神(頭)が「その後の人生」を歩ませてくれるという意味なんだろう。
そう思って踏ん張ったおかげで、現役生活が2年は長く続けられました。
平成23年11月場所。
当時の相撲界は度重なる不祥事や八百長問題で観客数が激減し、客席は空席が目立っていました。
解説者を務めていた私は、師匠の言葉を思い出し、紹介させてもらいました。
「談志師匠は客席で、お客さんが少ないほど燃えると言っていました。
来なかった人が後悔するくらい、来てくれたお客さんに
『足を運んでよかった』と思ってもらうためだったそうです」
力士たちにもこの精神で土俵を沸かせることを願ってのものでした。
舞の海秀平氏の『勝負脳の磨き方』(育鵬社)より抜粋
「お客さんが少ないほど燃える」、
考え方、捉え方で行動が変わり、結果が変わる。
かっこいいですね立川談志師匠。