二宮尊徳は、親戚の川久保民次郎に下男として働いてもらっていた。
民次郎が一家を構える年になったので地元へ帰すことになった。
尊徳は、民次郎に人の間で生きていくための心がけを話した。
「たとえば、腹が空いた人が他人の家に行って、"ご飯を食べさせてください"と言っても、誰も食べさせてはくれない。
しかし、空腹を我慢して庭の掃除をしてから頼めば、食べさせてくれるかもしれない。
この心がけがあれば困った時でもなんとかなるだろう」続いて、「私が若い頃、鍬(くわ)が壊れてしまった。
隣家へ借りに行ったら、"畑を耕して、菜の種をまくところじゃ。終わるまでは貸せないよ"と断られた。
そこで、"その畑を耕してあげましょう。
耕し終えたら、ついでに種もまきましょう"と言って作業を終えた。
隣家の老人は、ニコニコ顔で、"鍬だけでなく足りないモノがあったら、何でも言ってくれ、いつでもいいよ"と心を開いた」尊徳は、さらに言った。
「お前は、まだ若いから、毎晩、寝る前に草鞋(わらじ)を一足つくれ。
それを、草鞋の切れた人にやるがよい。
それで、お礼を言ってもらえれば、それだけ徳を積める。
この道理をわきまえて、毎日、励めば必ず道は開ける」
民次郎は、すっかり感心して明るい顔で郷里へ旅立った。
笠巻勝利氏の『目からウロコを落とす本』(PHP文庫)より
自分の利益を先に考えるより、他人の幸せを先に考える利他の人が、まわりの協力を得て、運も味方してくれるのでしょう。