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本日の一話<12月9日>

弟子入りのときに、立川談志師匠に言われた言葉。

「修行とは不合理や矛盾に耐えること。前座の役目は俺を快適にすること」

ここは学校ではありません。

また会社でもありません。

つまり、いままで所属していた社会で培(つちか)ってきた価値観だけでは対応できないのです。

ここで、自分のプライドとの勝負になります 。

おそらく立川流を自らやめていった人間の大半が「プライドとの兼ね合いで悩んだ結果」だろうと察します。

「なんでそこまで言われなきゃならないのか」「なんでそんなことまでしなきゃならないのか」という葛藤に耐えられなくなって、やめるのでしょう。

古典落語という「ネタバレ」したストーリーは、なぜプロが語ると面白いのでしょうか?答えは「間(ま)」です。

「間」は早すぎてもいけません。

長すぎても「大間(おおま)」といって好まれません。

ちょうどいいタイミングで処理するからこそ、「いい間だねえ」と評価されるのです。

まさに修行生活とは「間と呼吸」を求められる期間なのです。

要するに「おい、アレ出せ!」と言われたら、「はい!」と即、対応する力です。

遅いのは無論怒られますが、「アレ」という前にその品物を出すと、今度は「なぜ、お前のペースに俺が合わせなきゃならないんだ!?」と、これまた怒りの対象になるのですから、やはり「間」なのです。

さあ、ここで、「修行生活」を「無茶ぶり」と置き換えてみましょう。

前座の後半期、師匠から「いま飲んでるから机の上の原稿を持って来てくれ」とだけ留守番電話に入っていたことがありました。

この短いメッセージを深く吟味し、直前まで師匠と一緒にいた弟弟子に電話し、師匠が懇意の歯医者さんに行ったことを確認。

そしてその歯医者さんに電話をして、助手の方から「歯医者さん行きつけの店」を数店、聞き出し、さらには師匠が好みそうな雰囲気のお店...となると必然的に対象は絞られ、限定されてきます。

そこで、これはというお店に電話をし、案の定、師匠が飲んでいることを確認しておいて、お店の戸を開けて入っていきます。

「よくわかったなあ」と言ったのは、歯医者さんのほうでした。

師匠は、「こいつは、やっとこういう対応が取れるようになったんだよ、なあ?」と当然の顔。

「俺のところにいれば、どんなやつでも使えるようになるんだ」と、自慢げにその歯医者さんに語りました。

「修行」とは「無茶ぶり」、そして「無茶ぶり」とは「修行」なのです。

自分という小さいワクをぶち壊して、さらなるバージョンアップを図るには、「無茶ぶり」しかないのかもしれません。

このバージョンアップによって「対応力」が磨かれるのです。

そう、「無茶ぶり」は可能性のある者に向けられた試練なのです。


立川流真打、立川談慶氏の『落語力』(KKロングセラーズ)より


自分の身の回りに起こる不愉快なことも修行と思えば、気持ちも楽になるかもしれませんね。

そして、心の成長になるかもしれませんね






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