ある高校での話
その学校の剣道部の部長は剣道初段。
そんなに強い、うまいというわけではありません。
その部長は、自分がそれほどの腕ではないと思っていたせいか、
生徒が試合に勝ったりすると非常にほめて、
「そのやり方でいいぞ。がんばれ」と励ましたのだそうです。
口癖は「欠点などどうでもいいよ。得意技だけを磨け」。
興味深いことに、こういう指導を受けた生徒は学業成績もよくなったというのです。
次に部長となった先生は剣道四段でした。
まずまずの有段者です。
前の先生は甘やかしとして、
悪いところはビシビシ直すという指導法に変わったそうです。
ところが、それから三年たって生徒は、欠点を直すことだけに力を使ってしまい、
あまり技に進歩がなかったというのです。
それどころか、生徒の学業成績も芳しくなかったそうです。
「名選手必ずしも名監督にあらず」という言葉がある。
自分がすばらしい実績をあげたからと言って、
それと同じやり方を選手に押しつけてもうまくはいかない。
相手のよいところを引き出せる人が、名監督。
禅語に「明珠在掌(めいじゅたなごころにあり)」という言葉があるそうです。
意味は、「宝物は、すでにあなたの手の上にある、あなた自身が持っている」ということ。
自分の中の宝物を磨き、よいところを伸ばす。
それは、ほめることであり、その存在を認めることなのかもしれません。